まず、発声機能に関して最も重要な器官である声帯について簡単に説明します。
 一般的に「のど」とよばれている部位は、解剖学的には「咽頭(いんとう)」と「喉頭(こうとう)」に分かれます。喉頭は咽頭に比べ、のどの深い部位でさらに奥深く進むと気管、気管支、そして肺へとつながります。喉頭の中心には左右二枚の粘膜でおおわれたひだがあります。このひだが声帯とよばれるところです。
 このように声帯は、のどの深いところにあるため、直接観察することはできません。そのため喉頭の状態を確認するには鏡(間接喉頭鏡)や特殊光学機器(喉頭ファイバー)を使用します。
 声帯のはたらきとして、人が呼吸をする時は左右の声帯は開き、発声の時は閉じて、その合わせ目から息を吐き出して音を出すしくみになっているのです。ですから声がかれたり、声が出なくなったりすると、声帯をはじめ喉頭全体をよく検査しなければなりません。

  声がれと一言でいっても、その音質は原因となる病気によって少しずつ異なります。例えば、その声がれの音質と疑われる病気について述べますと
[呂ない声:声帯麻痺。全身の衰弱からおこる声帯の衰弱で、声に力がない。
⇔呂鵑誓次Ч頭癌、喉頭乳頭腫。声帯が振動しにくいため必要以上に声帯を緊張させるためにかれた声となる。
Bがもれる声:声帯麻痺、声帯結節。発声する時に声門が完全に閉じないためにおこる。
いらがら声:喉頭癌、声帯ポリープ。声帯がはれて声帯の振動が不規則になるためおこる。

 次に臨床でよくみられる重要な喉頭の病気についてお話します。

1.喉頭炎(こうとうえん):
 喉頭の粘膜に炎症がおこり、声帯に発赤やはれがみられます。かぜに伴なっておこることが最も多く,スポーツ応援で声を使いすぎたりしてもおこります。かぜの治療と同時に沈黙療法(声を出さないようにする)、禁煙が必要です。

2.急性声門下喉頭炎(仮性クループ):
 単純な喉頭炎とちがい炎症が声帯だけにとどまらず、声帯(声門)の下方の粘膜まで広がっている状態です。5-6歳以下の幼少児に発生しやすく、症状が強い場合は呼吸困難、チアノーゼ(血中酸素の濃度が低下したため顔面や唇が紫色にみえる)が発現します。特徴的な咳(犬が吠えるような感じの咳)がおこり、泣いた時、症状はさらに重くなります。このような時は早めの処置が必要です。乳幼児では治療が遅れて、生命の危機に陥る場合もありえます。

3.声帯ポリープ、声帯結節:
 簡単に言えば、声帯粘膜の上にできた良性のできものです。その形状によってポリープ、または結節と区別します。ポリープはくびれのある腫瘤で、結節は小さなしこりのことです。歌手、教師、政治家、スポーツ選手など職業上、声をよく使ったりする人や大声をだす学童に多くみられます。カラオケの歌いすぎでおこる場合もあります。 治療としては早期または、病変が小さいものでは発声法の矯正、沈黙療法、投薬などで治癒することもありますが、声がれが長期化したり、前述の治療法で改善するみ込みがない場合は、手術が適応されます。

4.ポリープ様声帯:
 声帯ポリープとのちがいは病変が声帯全体に広がっていることで、治療は手術が適応とされます。しかし、病変の大きさによっては手術をしても声帯ポリープのようにきれいな声をとりもどせるとは限りません。多くの患者に10年以上の喫煙歴があります。

5.声帯麻痺(せいたいまひ):
 声帯の動きをコントロールしている反回神経(はんかいしんけい)が関係するため、反回神経麻痺ともよばれています。原因はいろいろ考えられます。例えば、風邪のあとにみられる予後が良いものから悪性腫瘍(喉頭癌、食道癌、甲状腺癌、頚部や胸部の腫瘤など)のように生命の危機に関わる予後のわるいものまであります。
 しかし、精密検査をしても原因が確認できないことも少なくありません。かぜは治ったのに声がれが長く続く場合は、是非一度は耳鼻咽喉科医をたずねてください。

6.喉頭癌(こうとうがん):
 50歳以上のヘビースモーカーや喫煙歴の長い男性に圧倒的に多く発生します。声帯に癌が発生すれば、早い時期から声がかれますが、癌が声帯より上方に発生すれば、声がれよりものどの違和感、異物感が先にでてきます。また声帯より下方に癌が発生すれば、初期は無症状ですが、癌が大きくなるにつれ呼吸困難がおこってきます。
 喫煙習慣のある中高年の男性で2週間以上の声がれやのどの違和感があれば、一度は耳鼻咽喉科で診てもらうことをおすすめします。
 もし癌と診断されたら、専門医の指示にしたがい、ただちに治療を始めるべきでしょう。普通、治療法は癌のひろがり、患者の年齢、体力、全身状態、職業などを考慮して放射線療法、化学療法(抗癌剤)、手術が単独、またはいくつかの治療法が組み合わされて最も適切と考えられる方法が選択されます。
 喉頭癌の治療で重要なことは、患者の生命を救うことのほかに、発声機能を残すように配慮することだと耳鼻科医は考えています。
 今日では、初期の癌は治療によって発声機能も残しながら病気も治癒させることが可能となりました。しかし、病気の性質上、癌の再発、転移には十分の注意をはらって、経過観察していかなければなりません。癌と診断された時、すでに病気が進行している場合は、おこなわれた手術法のちがいで発声機能を失ってしまうこともあります。
 手術で喉頭を摘出され、声を失った人には代用音声として食道発声のリハビリテーション、人工喉頭の使用などがすすめられます。

 声がれや何らかののどの異常を感じた時は、耳鼻咽喉科を受診してください。